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【事例解説】特定健診の受診率を上げる「ナッジ理論」活用術

【事例解説】特定健診の受診率を上げる「ナッジ理論」活用術

「毎年同じように勧奨通知を送っているのに、受診率がなかなか上がらない…」「どうすれば、通知を受け取る方が『自分のこと』として捉え、行動してくれるのだろうか?」こうした課題は、多くの自治体や健康保険組合の担当者が抱える共通の悩みです。健康でいることの重要性は誰もが理解しているはずなのに、その一歩が踏み出せない。この「わかっているけど、やらない」という壁を、どう乗り越えれば良いのでしょうか。

その突破口となるのが、「ナッジ(Nudge)」(※1)という行動経済学の理論です。これは、人々を強制することなく、より良い選択を自発的に取れるようにそっと行動の後押しをするアプローチです。目的地までそっと道案内をする、親切な道しるべのようなもの、と考えると分かりやすいかもしれません。

この記事では、このナッジ理論を特定健診の受診勧奨通知に応用し、単なる「お知らせ」から、通知を受け取る方の行動変容を促す「招待状」へと変えるための、具体的な事例を交えて解説します。


なぜ「重要性」を説くだけでは響かないのか?

そもそも、なぜ健康の重要性を伝えるだけでは、受診に繋がらないのでしょうか。それは、私たちが「限定合理性」と呼ばれる特性を持つからです。人は常に費用便益を計算して合理的に判断するのではなく、直感や「自分は大丈夫」という楽観的な思い込み、あるいは「もし病気が見つかったら怖い」という不安感に頼りがちです。この人間行動の原理を踏まえ、厚生労働省も検診率向上策として行動経済学の活用を推進しています。

がん検診の受診率向上に関する報告書では、ナッジの考え方について次のように言及されています。

“対象者が、自分にとって一番良い選択肢を自ら選ぶことができるように、選択肢の提示方法を工夫したり、選択しやすい環境を整備したりすることで、対象者のより良い選択を後押しする手法”

— 厚生労働省「がん検診の受診率向上に向けたナッジ等の活用について」
出典元PDF

つまり、重要なのは「何を伝えるか」だけでなく、「どのように伝えるか」という「選択アーキテクチャ」(※2)をデザインすることです。受診勧奨通知は、まさにその設計思想が問われるクリエイティブなのです。


勧奨通知を「自分ごと」に変える:3つのナッジ活用事例

では具体的に、どのようにナッジを勧奨通知に組み込めばよいのでしょうか。国内の自治体で効果が報告されている3つの事例をご紹介します。

受診への「あと一歩」を後押しするテクニック

  • 【事例1】社会的比較(Social Proof)で「みんなも受けている」感を醸成する
    人は「他の多くの人がそれを支持している」と感じると、その行動を取りやすくなります。通知に「〇〇市の40代男性の2人に1人が受診しています」のように、自分と同じ属性の人々の受診率を具体的に示すことで、「自分も受けた方が良いかもしれない」という同調心理が働き、行動が促されます。
  • 【事例2】損失回避(Loss Aversion)で「損をしたくない」気持ちに訴える
    人は「何かを得る喜び」よりも「何かを失う痛み」を強く感じる傾向があります。「この無料クーポン券の有効期限は〇月〇日です」と期限を明確に示したり、「年に1度の無料の権利を、このまま使わなくて大丈夫ですか?」と問いかけたりすることで、「せっかくの機会を失いたくない」という気持ちを引き出し、受診を後押しします。
  • 【事例3】簡素化(Simplicity)で「面倒くさい」をなくす
    どんなにメリットがあっても、手続きが面倒だと人は行動しません。受診予約の方法を分かりやすく図解したり、スマートフォンで読み取るだけで予約サイトに飛べるQRコードを目立つように配置したり、提携医療機関の地図を載せるなど、受診までの心理的・物理的なハードルを徹底的に下げることが、行動に直結します。

これらのナッジは、相手の心理的な「つまずきの石」を丁寧に取り除いてあげる、思いやりのあるデザインと言えるでしょう。


最後に:優れたデザインは、人の「つい」を設計する

特定健診の勧奨通知は、単なる事務連絡ではありません。通知を受け取る方お一人おひとりの未来の健康を守るための、極めて重要なコミュニケーションツールです。そして、その効果を最大化するために、行動経済学の知見は強力な武器となります。

私たちVIVIBONDは、デザインが持つ力を信じています。それは単に見た目を美しくするだけでなく、その根底にある行動心理やユーザー体験を深く理解し、設計することです。お客様のビジネスが、その先の顧客にとって最良の選択肢として自然に選ばれるよう、私たちはあらゆるクリエイティブにおいて「行動のデザイン」を追求します。あなたのビジネスが持つ真の価値を、行動へと繋げるお手伝いができることを願っています。

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【注釈】

※1 ナッジ(Nudge): 「ひじでそっと突く」という意味の英単語。行動経済学の用語で、人々が強制されることなく、自発的に望ましい行動を選択するように促すための、巧妙で穏やかな介入や仕掛けのこと。
※2 選択アーキテクチャ(Choice Architecture): 人々が意思決定を行う際の、選択肢の提示方法やその背景にある環境設計のこと。この設計次第で、人々の選択が大きく変わりうる。

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